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神戸地方裁判所 昭和34年(行)27号 判決

原告 株式会社 小畠商店

被告 伊丹税務署長

訴訟代理人 光広龍夫 外三名

主文

被告が昭和三二年一二月二日付でなした原告の昭和三一年二月一日から昭和三二年一月三一日事業年度の所得金額金四七万八、九六九円法人税額金一六万七六一〇円とした更生決定の内右所得金額金四三万二、九二九円を超える部分はこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

原告が青果物販売等を業とする株式会社であること、原告が昭和三〇年度並びに同三一年度の法人税申告につき、その主張のような申請書を被告に提出したこと、被告が昭和三二年一二月二日付をもつて三〇年度並びに三一年度の各所得金額及び法人税額をそれぞれ原告主張のとおり更正決定したこと、原告が右決定を不服として再調査の申請をしたが、審査請求とみなされたうえ、大阪国税局長より昭和三四年七月三〇日付で三〇年度についてはその理由なしとして棄却され、三一年度についてはその一部を取消して所得金額金四三万四、四〇〇円と決定したことは当事者間に争いがない。

原告は、三〇年度および三一年度における原告の所得金額は原告の諸帳簿に基いて計算すれば原告の申告金額であるのに、被告が前記のように原告の所得金額を決定したのは違法である旨を主張するが

(1)  証人入谷数市の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証と同証言によれば原告のような青果物等の販売を行う業種では売買差益率が年間を通じて大差のないのが営業上の経験則ないし実情であるのに原告の本件各事業年度における売買差益率の変動が激しく、また極端に低い月が多いこと、そして原告は現金取引が九三%位を占めているのに、ぶら下げたざるに売上げの金を放りこんで、家事関連的な費用をも差引いた実際の有金をもつて売上金とするようなずさんな現金管理を行つていること、また帳簿を完備しておらず仕入れについてはともかく売上げに関しては正確に記帳されていないのみならず原告の本件各事業年度の営業利益率は同種法人組織のそれに比較して極端に低いこと、原告は小畠武雄の独占企業体で従業員の殆んどが小畠武雄の同族より組織されている同族会社であること等の事実を認めることができる。そこで右認定事実と原告の本件各事業年度の確定所得申告額を照合すると、原告の右各確定所得申告額は余りにも低いので信用できず、かえつて原告には売上金額の脱漏があると認めるのが相当である。右認定に反する原告会社代表者小畠武雄本人尋問の結果の一部は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2)  さすれば、右の如き事実が認められる本件においては、被告が原告の所得金額を推計によつて算出しても、その推計方法が可及的に合理的である限り、適法なものというべきである。

ところで、被告が本件各決定をなすに当つて用いた推計方法は、証人入谷数市の証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第二、三号証、同第五ないし第七号証並びに同証言によれば、次のとおりである。

(イ)  売上金額の推計について、

被告は原告の仕入金額の記帳に従い、その取扱商品の種類別に青果物、鮮魚、塩千物、乾物、卵、砂糖その他を区分して商品の種類別仕入原価と売上価格を各個に調査し、仕入原価に対する販売差益率を求め、全商品に対する仕入割合を加味して全商品の種類別積算比率を計算する。右の方法により計算した積算比率の合計を各事業年度の原告の仕入原価に積んだのが推計計算に基く売上価格となる。右比率の合計は三〇年度においては〇・二〇〇。三一年度においては〇・一八四。となつたので、三〇年度の仕入原価一、六一三万八、五二四円に対し売上金額一、九三六万六、二二八円を、三一年度の仕入原価一、七一四万三、五二〇円に対し売上金額二、〇二九万七、九二七円を各々算定した。

(ロ)  売上脱漏金額

右計算により算定した本件各事業年度の売上金額と原告申告の本件各事業年度の売上金額の差領が売上金脱漏額となる。すなわち三〇年度においては、推計売上金額一、九三六万六、二二八円-原告申告売上金額一、九〇五万七、二一〇円-一三〇万九、〇一八円、三一年度においては、推計売上金額二、〇二九万七、九二七円-原告申告売上金額二、〇〇〇万〇九九二円-二九万六、九三五円がそれぞれ売上脱漏額となる。

もつとも、前掲証言によると、原告は各脱漏売上金額を会社の資産として残さず、社外に流出して原告の代表取締役小畠武雄が個人的に消費したとしか考えられないと供述しているが、右証言のみをもつてしては右売上脱漏額は原告の右小畠に対する貸付金として認めるのに十分でない、ただ会計処理上仮払金(仮払金勘定とは、事業継続中の一時的な支出についてこれを処理する該当勘定等が未定な場合に一時その処理をする勘定である)と認定すべきものである。

(ハ)  そこで、右推計方法が合理的であるか否かについて検討するに、右のような資料に基く右のような推計方法は、原告のように諸帳簿が不備で、かつ現金売買が殆んどであるにもかかわらず現金が帳簿に正確に反映し難いような不充分な管理をなしている青果物販売を業とする企業における売上高および所得金額推計の方法として、一般的でかついわば精一杯の妥当な方法であると思料されるし、また、右推計に基いて、原告会社の本件各事業年度の申告営業利益率〇・七%を修正決定をすれば、いずれも二・二%となり、弁論の全趣旨により認めうる昭和二七年度および二八年度における大阪高等裁判所の判決による原告の営業利益率(三・三%および二・〇%)また大阪国税局作成の本件事業年度分の同業種法人の「営業利益率」および前記同業者の本件両事業年度の営業利益率(二・六%および三・八%)にも略見合う率となり、他に原告の営業が当該年度につき特に不況であつた等特段の事情を認むべき証拠もないので、右推計方法は合理的なものということができる。したがつて右推計方法によつて算出された売上脱漏金額を仮払金と認定して本件各事業年度の原告の申告所得金額に加算した本件各決定は、いずれも適法といわねばならない。

(3)  次に認定利息について判断するに、被告主張の年一割の利率は、市中銀行における日常の銀行取引の通例の利率であることを考慮すれば妥当な利率ということができる。

ところで、昭和三〇年度の認定利息につき、更正決定でした当事業年度首の小畠武雄に対する貸付金の存在を認めるのに十分でなくしたがつて、本事業年度におけるその利息も認められない道理である。次に昭和三一年度の認定利息につき判断するに、前記推計方法により計算された売上脱漏金額は昭和三〇年度の仮払金三〇万九、〇一八円のみであつて、本件全証拠によつても当事業年度首の小畠武雄に対する貸付金は認定できないから、前記仮払金に対する年一割の割合の利息金三万〇、九〇〇円のみを認定した。

(4)  進んで、事業税について判断するに、成立に争いのない乙第八号証、同第九号証の一、二、同第一一号証、同第一二号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇号証によれば、次の一ことが認定される。まず三〇年度の事業税について、二七年度分の事業税中損金算入残額五万四、二七〇円、二八年度分の事業税中損金算入残額三万四、二六〇円、二九年度分のそれは〇円であるところ、被告は昭和二八年度分の更正処分にあたり昭和二七年度分の未納事業金五万四、二七〇円を損金に算入し、さらに昭和二九年分の更正処分にあたり昭和二八年度分の未納事業税金三万四、二六〇円を損金に算入した。ところが、原告は昭和三〇年度において、昭和二七年度分の未納事業税金五万円を損金に算入したが、これは既に昭和二八年度分の所得金額の計算において損金に算入済であるので重ねて損金に計算できないものである。次に三一年度の事業税について、二七年度分の未納事業税損金算入残額は金四、二七〇円、二八年度分のそれは金三万四、二六〇円、二九年度分のそれは〇円、三〇年度分のそれは金四万〇、二〇〇円、合計金七万八、七三〇円となる。原告は昭和二七年度分金四、二七〇円、昭和二八年度分金三万四、二六〇円、は昭和三〇年度迄の所得金額の計算において既に損金に算入済である。しかるに原告は昭和三一年度において、昭和二七年分四、二七〇円および昭和二八年分三万四、二六〇円合計三万八、五三〇円を重ねて損金に算入した。しかしこれらは既に被告において損金に計上済であるから、右年度では再び損金に算入できないものである。しかし、原告は三〇年度分の事業税四万〇、二〇〇円中四、五五〇円を本年度分に損金算入したのみで残額三万五、六五〇円は未算入残額となつている。本事業年度における事業税の計算は損金算入を否認すべき金三万八、五三〇円と損金算入をなしうる三万五、六六〇円との差額二、八七〇円となるので、否認すべき金額は二、八七〇円となる。

(5)  昭和三一年度における歩戻金計上洩金額金三、二五四円については当事者間に争いがない。

以上により原告の所得金額の内訳はつぎのとおりとなる。

昭和三〇年度分について

(確定申告所得金額 六万二、〇一六円)

仮払金     三〇万九、〇一八円

認定利息           〇円

事業税      五万〇、〇〇〇円

合計所得金額  四二万一、〇三四円

昭和三一年度分について

(確定申告所得金額 九万八、九六九円)

仮払金     二九万六、九三五円

認定利息     三万〇、九〇一円

事業税        二、八七〇円

歩戻金計上洩     三、二五四円

合計所得金額  四三万二、九二九円

なお原告は本件各決定の通知書記載の附記理由は法の定める要件をみたしていないので違法であると主張し、被告は該主張は準備手続終結後になされたものであるから許されないとして争うので判断するに、一件記録によれば原告の該主張は準備手続を終結した後である昭和三八年八月二六日の口頭弁論期日にはじめて提出されたもので右準備手続の要約調書にもこれが記載されていないことは明らかである。なるほど、原告は本件準備手続終結後である昭和三八年五月三〇日に右理由付記に関しはじめて最高裁判所の判決がなされたことを云々するかの如くであるが、このことをもつて直ちに民事訴訟法第二五五条第一項但書にあたるものとはいえないから、原告の右主張は却下を免れないものといわねばならない。

してみると、原告の本訴請求中被告のなした昭和三一年度の更正決定の取消を求める請求のうち右認定の限度をこえる部分については理由があるから右の限度においてこれを認容し、原告のその余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 関護 村田晃 磯辺衛)

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